それは中学にあがったばかりのある日。

突然何かに目覚めてしまった兄サの巻き添えで、マラソンをするハメになってしまった。
海岸線を城まで走り、天守閣で折り返すという、道程6、7キロのコースだった。
そして、事件は初日に起こった(笑)

どんよりと雲が空を覆い、今にも泣き出しそうな状況の中、兄サと幼馴染とオレの3人は、一向に朝日が周囲を明るくしない海岸を走り、城の石垣まで辿りついた。
妙にテンションの高い兄サ。
無言で走る幼馴染。
始めからヤル気のないオレ。
それぞれの思いを胸に抱き、天守閣へ続く砂利道を走っていたとき、オレはあることに気付いた。

「おお、鴉と鳶が喧嘩しよる」
オレの声に、2人が上空を見る。
「本なごつ」
「どっちが強かやろ?」
「そりゃ鳶やろもん」
口々に呟きながら、足を止めて観戦する。
そして、オレはもう一つあるコトに気が付いた。
振り返るように、気になったところに目をやる。

車を止めるにはもってこいなその場所は、木に覆われているために一段と闇が濃かった。
それなのに、オレにはそこに人影が立っていることに気付いてしまったのだ。
それも、一目で鎧武者と判ってしまった。
肩辺りに矢を刺しているという姿だった。
それがじっと、オレたちの方を見つめている。

いまだ観戦を続ける兄サたちを、オレは震えながら手招くが、兄サたちは最後まで気付かなかった。
「兄サ!」
恐怖と苛立ちを込めて、オレは兄サを見て声を荒げた。
「何か、うるさかな」
本当にうるさげにオレを見た兄サ。
オレの声で驚いたのか、鴉と鳶も離れていった。
そして、2人は再び走り出した。
もう一度闇に視線を移し、鎧武者が消えてしまったのを確認し、オレも慌てて走り出す。
走りながらむかついた。
無事に家まで辿りついたオレは、二度とマラソンはするまいと心に誓った。

翌朝、マラソンに行く兄サにそのことを教えてやる。
「オレは行かん。兄サも気を付けんねね。あそこ居るけん」
何がいるのか即座に理解した兄サも、その日からマラソンをするとは言わなくなった。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

まだテーマがありません

この日記について

日記内を検索