我が愛しのなち・・・
2002年6月6日小さな体を震わせ、怯えた目でオレを見たお前。
手を伸ばすオレから逃れようと、少しずつ離れていこうとしてしていたお前。
世界のすべてが怖いものだと思い込み、体全体で拒否していたお前。
オレは、お前を抱きしめた瞬間に、お前のすべてを守ってやろうと思った。
・・・抱きしめられた瞬間に、びびりションで服を汚したお前をだ。
シェパードの体にハスキー犬の尻尾を持った「なち」
しばらくはオレの顔色を伺うように、おどおどと生活していた。
世界の中でもひとつだけ、信じていいものがあると分かるのにそう長い時間はかからなかった。
「なち」は風呂を嫌がった。
蚤とりシャンプーを舐めて、まずかったのが原因らしい。
オレは嫌がる「なち」を抱き上げ、水量と水温を調節した浴槽の中に放り込んだ。
「なち」は他の犬を怖がった。
隣のチワワの鳴き声に、尻尾を丸めた時は本気で怒った。
しかし、それすら愛しいと感じてしまっていた。
「なち」は牛刺しが好きだった。
ビールも一緒に平らげた。
「なち」は馬刺しも好きだった。
ちぎれんばかりに尻尾を振った。
「なち」は乾燥フードが嫌いだった。
ムカついた。
しばらくはラーメンかけご飯にしてやった。
ごま醤油ラーメンが好物になっていた。
「なち」は優しい奴だった。
子供が好きで、何をされても許していた。
そんな「なち」とも、お別れの日がやってきた。
仕事の都合で実家に戻ることになったのだ。
実家は市営団地。
当然犬を飼うなんてできない。
引き取り手も見つからず、捨てるか保健所に送るかの選択を迫られる。
保健所に送れば、そこに待っているのはガス室しかない。
送れるはずがないだろう。
捨ててもそれは同じだ。
オレは第三の選択を強行した。
ナビシートに友人を乗せ、赤いトレノが成田空港を目指す。
空港入り口で検問があった。
「すいません、免許証の提示をお願いします」
素直に従うオレ。
「トランクは何か入ってます?」
「ええ、まぁ」
「開けてもらえませんか?」
「もらえません」
途端に険しくなる警備員の目。
「何が入ってるんです」
「何って、なまものです」
「開けなさい!」
何故かえらい剣幕で命令してくる警備員がうっとうしくなり、オレは楯突いた。
この場合、警備員は「なまものって何です?」と聞き返してくるべきだったのだ。
(身勝手な人間の主張)
「断る」
高圧的な態度に反発するようにインプットされていたオレのDNAは、すぐにプログラムを実行に移した。
「トランクを開けて何かあったら、誰が責任を取る?あんたか?」
周囲に集まってきた警備員を目の端に捉えながら、オレは最前の警備員に言い寄った。
「私には責任は取れない。だけど、無理にでも開けてもらう」
態度は気に入らないが、返答は気に入った(笑)
「分かった。開けてやる。けど、慎重に開けよ」
警備員たちが車の後ろを取り囲む。
オレは車内のレバーを引いてトランクの施錠を解いた。
トランクが10センチほど跳ね上がる。
「なち」の鼻先が隙間から飛び出す。
警備員が恐る恐るトランクを開くと、申し訳なさそうな表情をした「なち」が辺りを見回して、怒られた子供のようにクゥ〜ンと鳴いた。
オレの車の後ろに付けていたカップルが、こちらを指差し爆笑していた。
オレは「なち」に、
「もう少しだからな」
と声をかけ、頭を押さえてトランクを閉めた。
「何故、犬と言わなかったんですか」
「聞かなかったからだよ。行っていいの?」
オレは幾分冷たく言い放ち、空港敷地内に入った。
つづく(笑)
手を伸ばすオレから逃れようと、少しずつ離れていこうとしてしていたお前。
世界のすべてが怖いものだと思い込み、体全体で拒否していたお前。
オレは、お前を抱きしめた瞬間に、お前のすべてを守ってやろうと思った。
・・・抱きしめられた瞬間に、びびりションで服を汚したお前をだ。
シェパードの体にハスキー犬の尻尾を持った「なち」
しばらくはオレの顔色を伺うように、おどおどと生活していた。
世界の中でもひとつだけ、信じていいものがあると分かるのにそう長い時間はかからなかった。
「なち」は風呂を嫌がった。
蚤とりシャンプーを舐めて、まずかったのが原因らしい。
オレは嫌がる「なち」を抱き上げ、水量と水温を調節した浴槽の中に放り込んだ。
「なち」は他の犬を怖がった。
隣のチワワの鳴き声に、尻尾を丸めた時は本気で怒った。
しかし、それすら愛しいと感じてしまっていた。
「なち」は牛刺しが好きだった。
ビールも一緒に平らげた。
「なち」は馬刺しも好きだった。
ちぎれんばかりに尻尾を振った。
「なち」は乾燥フードが嫌いだった。
ムカついた。
しばらくはラーメンかけご飯にしてやった。
ごま醤油ラーメンが好物になっていた。
「なち」は優しい奴だった。
子供が好きで、何をされても許していた。
そんな「なち」とも、お別れの日がやってきた。
仕事の都合で実家に戻ることになったのだ。
実家は市営団地。
当然犬を飼うなんてできない。
引き取り手も見つからず、捨てるか保健所に送るかの選択を迫られる。
保健所に送れば、そこに待っているのはガス室しかない。
送れるはずがないだろう。
捨ててもそれは同じだ。
オレは第三の選択を強行した。
ナビシートに友人を乗せ、赤いトレノが成田空港を目指す。
空港入り口で検問があった。
「すいません、免許証の提示をお願いします」
素直に従うオレ。
「トランクは何か入ってます?」
「ええ、まぁ」
「開けてもらえませんか?」
「もらえません」
途端に険しくなる警備員の目。
「何が入ってるんです」
「何って、なまものです」
「開けなさい!」
何故かえらい剣幕で命令してくる警備員がうっとうしくなり、オレは楯突いた。
この場合、警備員は「なまものって何です?」と聞き返してくるべきだったのだ。
(身勝手な人間の主張)
「断る」
高圧的な態度に反発するようにインプットされていたオレのDNAは、すぐにプログラムを実行に移した。
「トランクを開けて何かあったら、誰が責任を取る?あんたか?」
周囲に集まってきた警備員を目の端に捉えながら、オレは最前の警備員に言い寄った。
「私には責任は取れない。だけど、無理にでも開けてもらう」
態度は気に入らないが、返答は気に入った(笑)
「分かった。開けてやる。けど、慎重に開けよ」
警備員たちが車の後ろを取り囲む。
オレは車内のレバーを引いてトランクの施錠を解いた。
トランクが10センチほど跳ね上がる。
「なち」の鼻先が隙間から飛び出す。
警備員が恐る恐るトランクを開くと、申し訳なさそうな表情をした「なち」が辺りを見回して、怒られた子供のようにクゥ〜ンと鳴いた。
オレの車の後ろに付けていたカップルが、こちらを指差し爆笑していた。
オレは「なち」に、
「もう少しだからな」
と声をかけ、頭を押さえてトランクを閉めた。
「何故、犬と言わなかったんですか」
「聞かなかったからだよ。行っていいの?」
オレは幾分冷たく言い放ち、空港敷地内に入った。
つづく(笑)
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