遠くから子供の泣く声が聞こえてくる。
生まれたばかりの赤ん坊の声だ。
何かを伝えようと、必死に泣いている。
何故泣き止まないんだろう・・・?
何故誰も抱いてあげないんだろう・・・?
傍にいるよって、抱きしめてあげればいいのに。
赤ん坊の声が大きくなってくる。
泣かないで。オレはここにいるよ。
闇の中で赤ん坊を捜す。
泣いている赤ん坊を抱き上げるために。

「ごめん、起こしちゃったね」
ふと目を覚ますと、どこからか女性の声が遠慮がちに降ってきた。
声の方に視線を向けると、逆光でシルエットになった女房が、赤ん坊に母乳を与えていた。
「あぁ、腹が減ってたんか」
「うん。よく飲んでるよ」
表情は見えないものの、幸福感に満ち溢れた声音がすべてを物語っている。
「そっか・・・これだけは代わってやれないもんなぁ。ごめんな」
女房が洩らす含み笑いを心地よく聞きながら、オレは再びまどろみの中に埋もれていった。

目覚まし時計の音に蹴起こされ、オレはあまり爽快とは言えない朝を迎えた。
9時21分。
寝ボケた目で女房と子供を捜す。

っていうか、そんなもんいる筈がない。
オレは独身だっての(笑)
すぐに夢だと気付いて、自分のはんかくささに呆れる。
そして、現実の自分の姿にやるせないものを感じていた。
少なくても、夢の中の自分は、現実では味わえない幸福感に浸っていた。
家族がいる構図は、それだけで幸せの形だった。

「なんで」
言葉が口からこぼれ出た。

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