8月の憂鬱 1
2002年8月14日普段、自分にだけは心を開いていると思っていた人から、あからさまな拒絶を受けた場合。
オレは凹む前にうろたえる。
ひとしきりうろたえた後、どうしようもない位に凹むのだ。
8月は、その連続だった。
オレが勤める店には、寮住いをする女の子が二人いる。
オレ自身が寮に間借りしているコトから、彼女たちには何かと気をかけていた。
その内の一人。
オレをお兄さんと呼んで慕ってくれていたMさんが、疲れた表情でいることが多くなっていることに気付いた。
話し掛けても、一言「大丈夫です」と言って、ふいっと傍を離れるMさんに、オレは掛ける言葉すら失っていた。
原因も分からずそうした状況が続き、彼女は盆の休暇で帰郷することになった。
短い日数だが、家族と過ごせば少しは落ち着くだろう。
オレはそう思っていた。
しかし、帰ってきた彼女の表情は、これ以上ないくらい陰を帯び、病人のような様相を呈していた。
誰の目にも明らかな変化であり、決して楽観できる状況ではないのは間違いない。
「何か話を聞いてない?」
オレは自分が嫌われているのではないかと理由を作り、彼女がよく相談をしているパートのおばちゃんYさんに、それとなく聞いてみた。
「Mちゃん、最近彼氏ができてね・・・」
おもむろに話しだすYさんの言葉を、オレは一言一句聞き逃さないように身を乗り出した。
Yさんには申し訳ないが、オレは彼女に彼氏がいることは知っていた。
彼女が誰にも言わないのを条件に、一番始めに教えてくれたのだ。
当然、それがオレが嫌われることとは関係ないと思う。
「Mちゃん、初めて男の人を知って、今は彼氏しか見えてないのよ。今回実家に帰ったのも、両親に結婚の許可をもらおうとしていたみたいだし」
この話は初耳だが、彼氏ができた時点で、彼氏しか見えなくなるのは予想されることであり、驚くに値しない。
男女の関係すら、そうだ。
もっとも、心中穏やかとは言わないが。
それでもオレが嫌われる理由にはならないと思うが?
「男の人経験して、純情じゃなくなったってコトよ。今まではお兄さんとして接していても、今は一人の男として見ているんじゃない?」
それで?
「Mちゃんは今、彼氏以外の男の話は聞きたくないの。特に、自分をよく知っている男の話は」
そんなもんなの?
「彼氏と会う時間は限られているし、勉強はしないといけないし、それでも彼氏の傍にいたいしで、Mちゃん自身どうしたらいいのか分からないんだと思う」
それは分かる。うん。
「仕事に身が入らないわ、お侍さんには負い目があるわ、自分がすることに色々言ってほしくないわで、疎遠にしたり無視したりしていたんじゃないかな」
そう聞いて、オレは考え込んだ。
「どっちにしてもさ、お侍さんはMちゃんが落ち着くまでは知らない振りしていた方がいいよ」
ある部分ではうなづくことが出来たYさんの話は、とても納得できるものではなかった。
避けられたり無視されたりの理由はいいとして、それでは疎まれたり憎まれたりする理由はどこに?
男を知った女が、身近にいる男を男として意識した結果、憎むほど疎ましくなったと?
嫌われる理由を知らないまま、嫌われるコトに我慢できないオレは、Mさんに電話をかけていた。
オレは凹む前にうろたえる。
ひとしきりうろたえた後、どうしようもない位に凹むのだ。
8月は、その連続だった。
オレが勤める店には、寮住いをする女の子が二人いる。
オレ自身が寮に間借りしているコトから、彼女たちには何かと気をかけていた。
その内の一人。
オレをお兄さんと呼んで慕ってくれていたMさんが、疲れた表情でいることが多くなっていることに気付いた。
話し掛けても、一言「大丈夫です」と言って、ふいっと傍を離れるMさんに、オレは掛ける言葉すら失っていた。
原因も分からずそうした状況が続き、彼女は盆の休暇で帰郷することになった。
短い日数だが、家族と過ごせば少しは落ち着くだろう。
オレはそう思っていた。
しかし、帰ってきた彼女の表情は、これ以上ないくらい陰を帯び、病人のような様相を呈していた。
誰の目にも明らかな変化であり、決して楽観できる状況ではないのは間違いない。
「何か話を聞いてない?」
オレは自分が嫌われているのではないかと理由を作り、彼女がよく相談をしているパートのおばちゃんYさんに、それとなく聞いてみた。
「Mちゃん、最近彼氏ができてね・・・」
おもむろに話しだすYさんの言葉を、オレは一言一句聞き逃さないように身を乗り出した。
Yさんには申し訳ないが、オレは彼女に彼氏がいることは知っていた。
彼女が誰にも言わないのを条件に、一番始めに教えてくれたのだ。
当然、それがオレが嫌われることとは関係ないと思う。
「Mちゃん、初めて男の人を知って、今は彼氏しか見えてないのよ。今回実家に帰ったのも、両親に結婚の許可をもらおうとしていたみたいだし」
この話は初耳だが、彼氏ができた時点で、彼氏しか見えなくなるのは予想されることであり、驚くに値しない。
男女の関係すら、そうだ。
もっとも、心中穏やかとは言わないが。
それでもオレが嫌われる理由にはならないと思うが?
「男の人経験して、純情じゃなくなったってコトよ。今まではお兄さんとして接していても、今は一人の男として見ているんじゃない?」
それで?
「Mちゃんは今、彼氏以外の男の話は聞きたくないの。特に、自分をよく知っている男の話は」
そんなもんなの?
「彼氏と会う時間は限られているし、勉強はしないといけないし、それでも彼氏の傍にいたいしで、Mちゃん自身どうしたらいいのか分からないんだと思う」
それは分かる。うん。
「仕事に身が入らないわ、お侍さんには負い目があるわ、自分がすることに色々言ってほしくないわで、疎遠にしたり無視したりしていたんじゃないかな」
そう聞いて、オレは考え込んだ。
「どっちにしてもさ、お侍さんはMちゃんが落ち着くまでは知らない振りしていた方がいいよ」
ある部分ではうなづくことが出来たYさんの話は、とても納得できるものではなかった。
避けられたり無視されたりの理由はいいとして、それでは疎まれたり憎まれたりする理由はどこに?
男を知った女が、身近にいる男を男として意識した結果、憎むほど疎ましくなったと?
嫌われる理由を知らないまま、嫌われるコトに我慢できないオレは、Mさんに電話をかけていた。
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